音楽をコンピューターやシーケンサーを使って作る際の頭の中を整理してみようという試み

DAWトラック・メイキング クラブ・ミュージック的作曲術 (CD-ROM付)
DAWトラック・メイキング クラブ・ミュージック的作曲術 (CD-ROM付)

打ち込み・DTM・歌なし・インストゥルメンタルという条件で音楽を作るときの感覚を整理して今後の音楽制作解説動画に役立てよう(今後の動画の準備の一環)という記事。

YouTube yazawatamioのチャンネル


主観をもとにこのような表にしてみました。


音響による作曲----- 楽音による作曲
音の違い----- 物音・ノイズ----- 楽器の音
機材の違い----- ハードウェア----- DAW
ジャンルの違い----- DJツール ポップス
快感の違い----- 波形の歪みによる 音符の動きによる


音響と楽音に大きく二つに分けた。

  • 楽音というのは楽器そのものの音。
  • 音響というのは楽器以外の音。
  • 正確にはちょっとニュアンスが違うけどとりあえずこのように二分する。


音響による作曲とは

  • 音響による作曲とは、ハードウェアのサンプラー(や古いアナログ機材)を用いて作る、繰り返しをメインとしたDJ用のトラック。
  • DJトラックは古いハードウェアを活用して独特な歪みと曖昧さを得ることで、単純な繰り返しなのに飽きずに聴き続けることが出来る。
  • 楽器の音が「歪む」「波形が揺れ曖昧になる」と楽音がノイズ・物音化する。
  • 推測にすぎないが、脳の感じ方が風の音や水の音のような環境の音を聴く時のモードに変わるのかもしれない。波形が歪み、曖昧になり情報量が増えているようにも感じる。
  • 音響化したトラックでも、コード進行の単純な繰り返しを止めて、コードをどんどん展開させて動かすと音響的な聴き方が解除され、DJトラックにハマっている状態からも外れてメロディやコードを聴くモードに戻る。単純な繰り返しと音響化した質感が必要条件なのだ。


楽音による作曲とは

  • 楽音による作曲とは、DAWを用いて音符の動きで成立させたポップス。
  • DAWのソフトシンセなどによる歪みの少ない楽器の音は情報量が少なく単純な繰り返しでは飽きてしまうが、繰り返しをしないように絶えず音符が動くように設計することで複雑さを獲得し、曲全体での情報量が増えて豊かな音楽として聴けるようになる。ツルツルしたシンセの音でも豊かな音楽を作れるのだ。アニメーションの原理とも似ている。単純な線でも絶えず動かしてやることでキャラクターが生きているように感じるように。


音響による作曲をDAWだけで可能か?

  • 予め音響化した素材集(音ネタ集のライブラリーなど)を用いることで可能だが、それだと結局は間接的に何らかのハードウェアを利用していることになる・・。
  • DAW内部でハードウェアを完全に再現するのは現実的ではないが、アンプシミュレーターなどを活用することでDAWならではの音響化は可能だ。しかし、それでもまだ情報量は不足しがち。そこで結果的に発明されたのがダブステップなのかもしれない。シンセの音をデジタルに歪ませただけでは飽きてしまうが、DAWならではの音符単位で正確にLFOで揺らす効果を絶えず変化させて十分な複雑さ、情報量を、そしてDAWエフェクターのデジタル的な歪みさえも逆手に取って新しさを獲得している。

同じことが、エレクトロニカ(いわゆるニカ系)にも言える。ダブステップエレクトロニカといったコンピューターによるオーディオ編集以降の音楽は、アナログの世界のような不安定さからくるゆらぎや多様性の代わりに、人工的に作り出した「動き」で情報量を増やして新しい「音響」を作り出している。ある種、アニメーション的な手法だ。アニメーションも漫画ほどの線の情報量は無い代わりに、動きによる情報量が豊富であり漫画とは違う新しい表現を獲得した歴史がある。

  • 余談だが、アシッドハウスは音響なのか、楽音なのか?このへんも考えてみると面白いかもしれない。

ノイズ・ウォー―ノイズ・ミュージックとその展開
ノイズ・ウォー―ノイズ・ミュージックとその展開 秋田昌美