ダフト・パンクの作曲研究001 「デジタル・ラブの低音に関する2つの発明」

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今回はアルバム ディスカバリーの中からDigital Loveを例にとって低音に関するダフト・パンクの2つの発明を解説したい。

Twitterで「キックの入ったところで盛り上げを作っているだけだ」という意見をいただき、「うっ、単なる俺の思い込みだったか!?恥ずかしい!」と焦って、改めてデジタルラブを聞き返したら面白いことに気づいた。ありがとうございます。詳しくは明日記事にするけど、ちょっとだけ書くと、キックが入っているところで確かに盛り上がっているように聞こえるが、この聴こえ方はクラブミュージックに慣れている人の耳だからだ。ポップスの耳で聞くと、面白いことに気づく。キックが入っているのは間奏なのだ。これは結構変わった構成かもしれないといった感じで、図解入りの記事になる予定。同じディスカバリーというアルバムのなかの、スーパーヒーローズという曲と比較してみるとデジタルラブという曲の面白さが際立つ・・・てな感じで明日また書きます。
書きました。こちらからどうぞ。

・・というわけで本題にもどります。
この曲のバックトラックはミニマルなループから出来ていて、歌やパートの抜き差しによって展開を作っている。構成としてはヒップホップのループの上で歌を乗せることで展開をつけているアメリカのR&Bと同じような感じだ。

この曲の低音の扱いについては2つの特徴がある。


1.そもそも、低音が控えめにミックスされている。

四つ打ちのトラックなのにキックのアタックが強調されて余韻はあまり聞こえない。これによって余韻の部分に含まれるキックの太い低域の部分の鳴りは控えめになっている。また、ベースラインと言えるような低音のパートも殆ど聞こえない。ベースパートがほぼ無いというふうに言ってしまって構わないと思う。ベースが無いというのは四つ打ちのダンスミュージックとしてもポップスとしても、かなり珍しい。

低音が出ないような小さなスピーカーや、低音が聞き取りにくいような騒音の多い場所でも音楽を楽しめる。このような低音に依存しないミックスバランスこそがポップスの大事な要素なのだが、それを結構無理やり四つ打ちのクラブトラックに当てはめている。低音には頼れないのでパートの抜き差しとシンセのリフ、歌によって展開を作っている。


2.もともと低域が控えめにミックスしてあるだけでなく、更に曲の大部分の低音はフィルターによってDJ的な手法で大胆にカットされている。

結構、驚きなのだが、冒頭からこの曲の1分45秒くらいまで、低音がフィルターによって完全にカットされている。そのあと低音が鳴り始めるが、再び低音がカットされて〜というふうに展開。

曲の低音域を丸ごとカットしてしまうというやり方は、テクノやハウスのDJが低音を抜くことであえて焦らし、盛り上げるというクラブシーンではポピュラーなやり方だが、ダフトパンクはこれをポップスに持ち込んだ。


まとめ・ダフトパンク的なアレンジのポップスは、もはやありふれているが、デジタルラブのような解釈の仕方で低音を扱っている曲はあまりない。

ダフトパンクがデジタルラブで挑戦したのは、ポップスを作ることだったと思うが、彼らは作り方自体は変えなかった。DJ的なトラック制作手法はそのままに、低音に頼らずに展開が成立するように方針を変えて作った。

そして、それまでポップスの中では誰も行わなかったDJ的な焦らす手法を、極めて自然に導入。
フィルターにより曲全体の低音をカットするというある意味とても乱暴なやり方で展開を作っているが違和感が無い。

この発想の転換は、ポップスだからといって途端にポップス的な作曲法にシフトして魂を売ったというふうに思われることもなく、なおかつそれまでポップスの世界ではタブーとされていたような乱暴なやり方まで導入。

見事ポップスとして成立しながらも姿勢としては流れに逆らうロック魂すら感じさせるというアクロバティックな着地をしてみせたのだ。

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