ダフト・パンクの作曲研究003 【図解】デジタルラブから学ぶクラブ・ミュージックのループ的な構造のままで、ポップスを作る方法。

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ダフト・パンク/Discovery(Amazon)

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日曜はお休みしてしまったのですが、引き続きDigital Loveを独断と偏見で解説。

以前からデジタルラブは歌が匿名的であるのが気になっていた。10年以上聴いているのに、歌手が誰であるかが気にならないのだ。今回はその理由(ロボ声であるという以外)を自分なりに考えてみたら面白い結論にたどり着いた。

↓デジタルラブの構成 (! 前回のとは、色付けが異なります)

冒頭からのピンク色の50小節

  • 最初の8小節はメインのリフ(サンプリングネタ)が鳴る。このメインのリフこそがこの曲の一貫したテーマであり、それを紹介する意味を持つ。

↓サンプリング元ネタの曲( George Duke - I love you more )
http://www.youtube.com/watch?v=d_dXer2fvks

Master Of The Game ~ Expanded Edition
デジタルラブのサンプリング元ネタはこちらのアルバムに収録(Amazon)

  • メインリフには最初からパッドシンセ(コーラスのようなハーモニーの機能を担当)が重ねられている。
  • 9小節目からシンガーソングライター風の歌が始まると同時にメインのリフはフィルターで高域をカットされて歌を邪魔しないように背後へ。
  • 少しずつ音数が増えて行き、盛り上げていくが、低域はカットされたままなので気持ちが良いが、どこか物足りない。

キックが四つ打ちで鳴り始める黄色の16小節

  • この16小節だけをループさせ聴き続けてみると分かるが、単体ではあまり気持ち良くない。
  • 「冒頭からの50小節では欠けていた低音が鳴り始めた」という喜びはあるのだが、歌が無いし、メインのリフと四つ打ちだけだというのが盛り上がりきらない理由かもしれない。

青い8小節

  • この箇所では、今までなっていたものとは異なる音ばかりが登場するし、メインのサンプリングネタループはミュートされて鳴らない。
  • シンセのキレの良いコードのカッティングとオールドスクールなエレクトロ的なビートでこのパートだけエイトビートっぽいノリになる。
  • このパートのは今までと全く違うノリやサウンドにすることで、一旦今までを忘れて再び元のループに戻った時に新鮮さを感じさせる、つまりブレイク的な機能を持っている。

緑色の24小節

  • このパートでは新しいシンセのリフが鳴り始める、それも単体で。
  • 青い8小節の機能と同じだが、たったひとつの楽器しか鳴っていないのでさらに新鮮だ。
  • 直後に来る次の新しい青い8小節でメインのリフと重なることでテーマに回帰し、四つ打ちのキックも重なっていくが、やはり歌は鳴らないので盛り上げは抑制されている。

どのパートも単体では成り立たない(すべてのパートがどこか足りない構成)
以前から歌が匿名的であるのが気になっていた。10年以上聴いているのに、歌手が誰であるかが気にならないのだ。その理由はこの構成にあった。


歌が鳴る場面では必ず低音(キック)がミュートされ、低音が鳴る場面では今度は歌が必ずミュートされ、それだけでなく楽器の音数も減る。


DJ的なクラブミュージックの視点から見ると、低音が(最大量で)鳴るというのは「最も盛り上がっている(盛り上げたい)」という意味なので、あくまでこの曲の主役(サビ)は低音の鳴る「キックと楽器だけのパート」であり、歌のパートは準主役となる。しかし最もおいしいとこ(低音の鳴るパート)では歌っていない。このことから 歌手が誰かは気にならず、匿名的に聴こえるのかもしれない。


ところで、「サビ」であるはずの低音のなっている箇所を単体でループさせて聞いてみたらどうだろう?結果は気持ちよさが今一つである。他のすべてのあらゆる箇所をそれぞれ単体でループさせて聞いても同様である。


また、「ベースが鳴らない(ベースのパートが無い)」というのもかなり珍しいし、グルーヴを出す上でも不利である。


つまり、ハウス的な「どこをループさせても気持ちが良くてずっと聴けるループの快楽」は弱く、常に8~16小節単位で展開し続けないと持たない。


この構成から学べるのは、クラブミュージックのループ的な構造のままで、ポップスを作る方法だ。

「歌を配置するのは低音のない箇所にする」ことで、盛り上がる箇所では盛り上げすぎない、そしてあくまでも主役は楽器のサウンドであるというふうにしている。そのやり方は分析的に聞いて見ない限り気づかないほど巧妙にできている。

  • 歌をうまく取り込んでいるのでポップスに聴こえる。
  • そのおかげで後半の「弾きまくる」パートも成立している。
  • 「弾きまくる」パートは従来のDJ的な視点からみるとやり過ぎのはずだが、このアルバム以降はアリになってしまった。
  • 典型的ないわゆる「歌モノ」にはなっていないのでポップだけどダサくない(トラックメーカーとしての良心に反しない効果)。
  • 盛り上げすぎたり、甘すぎたりしないので飽きない。

デジタルラブはこのようにポップスとしてうまく擬態し、構造はDJ的なループ主体の音楽のままで、それまでだったらあり得ないような人間味のある演奏しまくる音楽性をテクノミュージックの中でも「かっこいいこと」にしてしまった。

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